最高裁判所第一小法廷 昭和63年(行ツ)147号 判決 1988年11月24日
神戸市兵庫区下山町三丁目一四五番地の九
上告人
共同株式会社
右代表者代表取締役
岡田文恵
右訴訟代理人弁護士
山下更一
神戸市兵庫区水木通二丁目一番四号
被上告人
兵庫税務署長
倉元功
右当事者間の大阪高等裁判所昭和六二年(行コ)第四七号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和六三年六月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部棄却を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山下更一の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)
(昭和六三年(行ツ)第一四五号 上告人 共同株式会社)
上告代理人山下更一の上告理由
原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
一 上告人が元所有していた、神戸市長田区蓮宮通四丁目二番地ほかの土地、建物(以下「本件不動産」という)の管理を岡田株式会社(以下「岡田」という)が上告人との管理業務委託契約に基づき行って来た事実があるのに原判決はこれを否定した。
しかし、右上告人と「岡田」間の管理業務委託契約の事実は<1>乙第八号証の委任状の存在、<2>上告人が「岡田」に本件不動産の管理を委託するに至った理由が、それまで事実上の管理行為をしてきた上告人第表者岡田文恵の長女が結婚し出産を控えていたため管理行為が出来なくなったという事情が存していたため、他に管理を委託する必要があったこと等の証拠がら明らかであり、
また「岡田」が、管理業務を遂行してきたことは、
<1>「岡田」の代表者岡田正光が同じく代表をする岡田縫製株式会社の縫製工場を「本件不動産」の一部に設置して、正光自身右工場に毎日のように出勤し、又宿直して日常の管理に当たっていたこと、<2>正光が、直接集金した家賃は正光が管理料の一部として受領していたことがあること、<3>「岡田」の従業員を本件不動産の一部に居住させ管理の補助をさせていたこと、<5>借家人に対する明け渡し訴訟や家屋の修繕工事等は専ら正光の判断で遂行していたこと等の事実からこれも明らかである。
二 昭和五四年ころ正光一家が渡米するに当たり、事業の閉鎖等に約一億円を必要とするとのことから、右金額を本件不動産の「岡田」の管理料の未払らい分や本件不動産を更地にするため借家人の明け渡し交渉を「岡田」がすることとしてその管理料等計一億円を上告人が「岡田」に支払うことを約束した結果、上告人が更地になった(借家人が一人もいなくなった)本件不動産を売却して、支払われたのが、本件一億円である。
即ち、「岡田」は、最終的には、計八軒の借家人を立ち退かせることに成功し更地同然にしたものであり、この管理料を含めての金額が、計一億円と算出されたものである。
上告人の代表者が個人として右金銭を捻出して支払わなければならない理由は意図は全くなかった。
三 右「岡田」が一億円の支払を受領するに当たっては、「岡田」および岡田縫製株式会社は、神戸市中央区相生町所在の株式会社岡田羅紗店(上告人代表者岡田文恵が代表者)、神戸洋服株式会社(文恵の夫岡田耕平が代表者)が所有し、「岡田」乃至岡田縫製株式会社が占拠していた土地、建物全てを明け渡す約束が成立していた。右約束は、結局裁判上の和解で実現したが、「岡田」らは、右不動産の占拠中、賃料等について支払をせず、株式会社岡田羅紗店らは所有者として収入がなく、赤字経営であり、従って法人税を支払えなかったが、右明け渡し実現の結果、よそに賃貸する等して収入を上げることができるようになった。
その概略は次のとおりである。
岡田羅紗店 <1>相生町一丁目二一番の二地上の通称新築ビル(岡田らが明渡し後新築した四階建ビル)の一及び二階部分は岡田羅紗店の所有
<2>同町九番地等の地上ビル(通称岡田ビル)の一乃至三階部分
家賃収入 <1>と<2>で一ケ年合計一五、〇四八、〇〇〇円
神戸洋服 <1>岡田ビル四階部分
<2>相生町一丁目一九番地等地上のビル(通称神戸洋服ビル)
<3>新築ビルの四階部分
家賃収入<1>、<2>、<3>で一ケ年合計六、五七六、〇〇〇円
控訴人 <1>新築ビルの三階部分
家賃収入一ケ年三、六〇〇、〇〇〇円
以上のような収益を得ることが可能になったのは、岡田らが、前記各不動産の立ち退きに応じたからにほかならず、形式的には、当事者がそれぞれ異なるものの、控訴人、岡田羅紗店は文恵が、又神戸洋服は耕平がそれぞれ代表者であること、いずれもが同族会社であること等を考えれば、実質的にみれば、一億円の支払が右のような収益をあげる費用になったのは間違いなく、この点からみても、一億円の支払が損金算入と同様な評価を受けるべきである。
以上